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東京地方裁判所 昭和34年(行モ)17号 決定

申立人 株式会社塩田組

被申立人 中央労働委員会

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立人の本件申立の要旨は、

(一)  申立人は昭和三二年五月一四日兵庫県地方労働委員会より「申立人は、昭和三一年一二月一三日附でなしたる岩城伸雄に対する解雇を取り消し、同人を原職に復帰させ、かつ、解雇の翌日から原職復帰に至るまで同人が在職していたら受ける筈であつた諸給与を支払うこと」など三項目にわたる救済命令を受け、被申立人に再審査の申立をしたが、昭和三三年二月五日被申立人より右申立を棄却され、同年三月一日当庁に被申立人を被告として右命令の取消の訴訟を提起したが、他方被申立人は昭和三三年三月三一日申立人を相手方として当庁に緊急命令の申立をし、当庁昭和三三年(行モ)第五号緊急命令申立事件として係属し、当庁から同年四月二三日申立人に対し岩城伸雄の原職復帰と同人に対する金一二万円および昭和三三年四月二五日以降原職復帰に至るまで月九五〇〇円の割合による金員の支払をなすべきことを内容とする緊急命令が発せられた。

(二)  申立人は昭和三四年三月二七日大阪高等裁判所において岩城伸雄と雇用契約の合意解除、金員の支払等を内容とする裁判上の和解をし、本件不当労働行為の救済申立人である全日本港湾労働組合神戸地方塩田支部からも兵庫県地方労働委員会の救済命令の執行を希望しない旨の書面の交付を受けたので、同年四月七日前記再審査申立棄却命令の取消の訴を被申立人の同意を得て取り下げた。

(三)  よつて当庁が昭和三三年四月二三日発した緊急命令の取消を求める。

というのである。

申立人の申立理由(一)、(二)の事実は、当庁昭和三三年(行)第二一号、同年(行モ)第五号及び本件の各記録に徴し認められる。

緊急命令に基き使用者に課せられた公法上の義務は、申立人主張のような使用者と被救済労働者ないし救済申立人との私的な話合の成立という事情だけで、その履行をしないでよかつたとする事情とはいえないから、かかる事情があるからといつて、前記緊急命令を遡つて取り消すのを相当とは考えられない。

次に緊急命令は、救済命令を受けた使用者が右命令又はこれに対する再審査申立棄却命令の取消訴訟を提起し、その訴訟が、裁判所に係属する間にかぎつて効力を有すべき命令であることは労働組合法第二七条第七項、第二八条、第三二条の諸規定により明白である。

従つて、前記取消訴訟の取下があつた以上、緊急命令は当然に失効し、その後は同法第三二条後段により労働委員会の救済命令違反の有無だけが問題となるわけである。

以上のとおり、申立人の前記取消訴訟取下前に遡つて緊急命令の取消を求める申立は理由がなく、また右申立が前記取消訴訟の取下により緊急命令が失効したことを明確にする意味でその取消の申立をしたとしても、右取消訴訟の取下に伴う緊急命令の失効の如きは、緊急命令の性質上当然のことであつて、当裁判所が昭和三三年四月二三日申立人に対して発した緊急命令に前記取消訴訟の「判決確定に至るまで」とその効力を限定したのは、右訴訟の取下による終了をもその効力の終期とする趣旨を含めて表現したものであるから、右訴訟の取下による緊急命令の失効の如きは緊急命令自体においてすでに明白にされているところである。

従つて、前記のような意味においても右緊急命令を取り消す必要がないのである。

よつて、申立費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 桑原正憲 大塚正夫 石田穰一)

【参考資料一】

緊急命令申立事件

(東京地方昭和三三年(行モ)第五号昭和三三年四月二三日決定)

申立人 中央労働委員会

被申立人 株式会社塩田組

主文

当裁判所昭和三三年(行)第二一号、不当労働行為命令取消請求事件の判決が確定するまで、被申立人は申立人が被申立人に対してなした中労委昭和三二年(不再)第二二号不当労働行為再審査事件の命令の趣旨に従い、岩城伸雄を原職に復帰させ、かつ同人に対し金一二万円並びに昭和三三年四月二五日以降原職復帰に至るまで月額九五〇〇円の割合による金員を支払わなければならない。

(裁判官 西川美数 大塚正夫 花田政道)

【参考資料二】

労組法違反過料事件

(東京地方昭和三三年(ホ)第一七六号昭和三四年四月六日決定)

違反者 株式会社塩田組

主文

違反者を過料金四五〇、〇〇〇円に処する。

手続費用は、違反者の負担とする。

理由

違反者は、神戸市生田区明石町三〇番地に本店を置き、輸入綿花商の代行下請を主たる業務とし、約一二〇名の従業員を雇用する株式会社であるが、昭和三一年一二月一三日岩城伸雄を解雇したところ、同人を代表者とする全日本港湾労働組合神戸地方塩田支部から兵庫県地方労働委員会に対し、右解雇処分を不当労働行為とする救済命令の申立がなされ(同委員会昭和三一年(不)第一三号事件)、昭和三二年四月三〇日、「被申立人(違反者)は、昭和三一年一二月一三日付でなしたる岩城伸雄に対する解雇を取り消し、同人を原職に復帰させ、かつ解雇の翌日から原職復帰に至るまでの間に同人が在職していたら受ける筈であつた諸給与を支払え。」その他を内容とする命令があり、これに対する違反者の再審査申立も、中央労働委員会(昭和三二年(不再)第二二号事件)において昭和三三年二月五日棄却された。そこで、違反者は、東京地方裁判所に右中央労働委員会の命令の取消請求訴訟を提起した(同年(行)第二一号事件)のであるが、同裁判所は、同委員会の申立により(同年(行モ)第五号事件)、同年四月二三日、「同裁判所同年(行)第二一号不当労働行為命令取消請求事件の判決が確定するまで、被申立人(違反者)は、申立人が被申立人に対してなした中労委昭和三二年(不再)第二二号不当労働行為再審査事件の命令の趣旨に従い、岩城伸雄を原職に復帰させ、かつ、同人に対し金一二〇、〇〇〇円並びに昭和三三年四月二五日以降原職復帰に至るまで月額金九、五〇〇円の割合による金員を支払わなければならない。」との労働組合法第二七条第七項に基く決定(緊急命令)をなした。しかるところ、違反者は、同月二六日右決定の送達を受けながら、昭和三四年三月四日まで同決定に命ぜられたところの全部を履行しなかつたものである。

右の事実は、証人岩城伸雄の証言、違反者会社代表者塩田富造本人尋問の結果の外、一件記録に徴しこれを認めるに十分である。

よつて、労働組合法第三二条前段、非訟事件手続法第二〇七条第四項に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 戸根住夫)

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